304: アポリポタンパク質B-100とLDL受容体(Apolipoprotein B-100 and LDL Receptor)

著者: Janet Iwasa 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

ApoB100(オレンジ色で示す部分)はLDL粒子にベルトのように巻きついている。LDL受容体(ピンク色と紫色で示す部分)はApoB100上の複数の場所に結合する(PDB 9BDT)。
ApoB100(オレンジ色で示す部分)はLDL粒子にベルトのように巻きついている。LDL受容体(ピンク色と紫色で示す部分)はApoB100上の複数の場所に結合する(PDB 9BDT)。 高解像度TIFF画像はこちら

リポタンパク質(lipoprotein)はタンパク質と脂質でできた粒子で、血流中を移動し、トリグリセリド(triglyceride)、コレステロール(cholesterol)、リン脂質(phospholipid)を含む多様な脂質を運搬する役割を担っている。これらの脂質は、膜の形成や維持など、欠かせない機能を維持するために全身の組織で必要とされている。しかし、循環しているリポタンパク質粒子の濃度は注意深く調節しておかなければならない。リポタンパク質が蓄積されると、さまざまな健康上の問題が生じる可能性がある。

脂肪輸送システム

リポタンパク質の多くは肝臓でつくられていて、ここにある特殊な細胞が超低比重リポタンパク質(very low-density lipoprotein、VLDL)と呼ばれる粒子をつくって放出する。この粒子には、トリグリセリド、コレステロールおよびその誘導体、リン脂質、そしてアポリポタンパク質(apolipoprotein)と呼ばれるタンパク質が詰め込まれている。VLDLが血液中を循環している間に、様々な組織の細胞がエネルギーや貯蔵のためにトリグリセリドを取り出す。その結果、VLDLは徐々に小さくなって粒子の組成が変わり、最終的に低比重リポタンパク質(LDL)に変化する。LDLはVLDLに比べてコレステロールが豊富である。リポタンパク質のタンパク組成も変化し、循環中に別のアポリポタンパク質と交換されたり、粒子から除去されたりする。しかし、アポリポタンパク質B-100(ApoB100とも呼ばれる)は大きな両親媒性タンパク質であり、ベルト状の構造を形成する(右の図ではオレンジ色で示す、PDB 9BDT)。

循環するLDLは最終的には肝臓へと戻り、そこで肝細胞により吸収・分解される。これらの細胞は、ApoB100を認識して結合する特殊なLDL受容体(紫色とピンク色で示す)をつくっている。いったんApoB100が結合すると、LDL粒子はエンドサイトーシス(endocytosis)と呼ばれる過程を経て細胞に取り込まれる。

LDLを手放す

LDL受容体は酸性条件下(背景をピンク色で示す部分)にあると、これ自身が折りたたまれる(右、PDB 1N7D)。これにより、LDL粒子(黄色で示す部分、PDB 9BDT)がエンドソームの内腔に放出されると考えられている。
LDL受容体は酸性条件下(背景をピンク色で示す部分)にあると、これ自身が折りたたまれる(右、PDB 1N7D)。これにより、LDL粒子(黄色で示す部分、PDB 9BDT)がエンドソームの内腔に放出されると考えられている。 高解像度TIFF画像はこちら

エンドソームが酸性環境下にあると、LDL粒子の放出が誘発される。これは、LDL受容体に水素イオンが付加されることでLDL粒子に対する親和性が低下し、受容体自身に対する親和性が高まることによって起こると考えられている。LDL受容体は、図の右側(PDB 1N7D)に示すように、自分自身の上に折り返されて、LDL粒子は小胞内腔に放出される。その後、LDL粒子はリソソームなどの細胞区画へと輸送され、LDL受容体は細胞膜へとリサイクルされる。

サイズ調整

ApoB100全長の分子構造モデル(PDB 9EAG)を2つの異なる向きで示す。
ApoB100全長の分子構造モデル(PDB 9EAG)を2つの異なる向きで示す。 高解像度TIFF画像はこちら

VLDLが最初に肝細胞から放出されるとき、その直径は約30-60nmで、中はトリグリセリドで満たされている。それがLDLに変化してエンドサイトーシスされる頃には、その大きさは約20nmにまで縮小している。驚くべきことに、この過程でApoB100はリポタンパク質にしっかりと巻き付いたままであり、そのサイズの変化に柔軟に対応している。クライオ電子顕微鏡、構造予測、分子動力学シミュレーションのデータを組み合わせた統合的モデリング手法によって得られた最近の知見により、この柔軟性がどのようにして実現されているのかが明らかになった。ApoB100の中央にあるβベルトは、締めたり緩めたりすることで調整でき、その両端は、粒子が収縮する際に互いにスライドして対応する。ApoB100内にある柔軟な鎖間部分は、粒子が最も小さいときには曲がってApoB100の他の部分と接触するが、曲がった領域をまっすぐにしたり接触を解除したりすることで、大きな粒子にも容易に対応できる。この構造的適応性により、ApoB100はリポタンパク質の大きさや組成が変化しても、リポタンパク質に巻き付いた状態を保つことができるのである。

構造をみる

家族性高コレステロール血症を引き起こす変異

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

過剰なコレステロールが長期間血液中を循環していると、動脈壁にコレステロールを多く含むプラークが形成され、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)として知られる病気になる。時間の経過とともに動脈は狭くなったり閉塞したりして脳卒中や心臓発作を引き起こす。家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia)は、循環LDL値が高いことを特徴とする遺伝性疾患である。多くの場合、この疾患はApoB100またはLDL受容体をコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされる。画像の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、ApoB100とLDL受容体との結合面に局在する変異を詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. アポリポタンパク質が、膜タンパク質の構造研究にとって重要なツールであるナノディスクの設計にどのような影響を与えたかを調べてみて欲しい。
  2. 脂質は、細胞内の脂質滴にどのように貯蔵されるかを詳しく見てみよう。

参考文献

  1. 9BDT Reimund M, Dearborn AD, Graziano G, Lei H, Ciancone AM, Kumar A, Holewinski R, Neufeld EB, O'Reilly FJ, Remaley AT, Marcotrigiano J. 2024 Structure of apolipoprotein B100 bound to the low-density lipoprotein receptor. Nature 638 829-835 DOI:10.1038/s41586-024-08223-0 PMID:39663455
  2. 1N7D Rudenko G, Henry L, Henderson K, Ichtchenko K, Brown MS, Goldstein JL, Deisenhofer J. 2002 Structure of the LDL receptor extracellular domain at endosomal pH. Science. 298 2353-2358 DOI:10.1126/science.1078124 PMID:12459547
  3. 9EAG Berndsen ZT, Cassidy CK. 2024 The structure of apolipoprotein B100 from human low-density lipoprotein. Nature 638 836-843 DOI:10.1038/s41586-024-08467-w PMID:39662503 PMC:PMC11839476

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2025年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

	{
    "header": {
        "minimamHeightScale": 1.0,
        "scalingAnimSec": 0.3
    },
    "src": {
        "spacer": "/share/im/ui_spacer.png",
        "dummy": "/share/im/ui_dummy.png"
    },
    "spacer": "/share/im/ui_spacer.png"
}